第7章 統計とのつきあい方:薬剤師のための“読み解く力”

Evidence-Based Medicine (EBM) を実践する上で、統計結果の正しい読み解きは薬剤師にとって欠かせません。第5章・第6章までで研究デザインやバイアスについて学んできましたが、最終的に文献の「結果」を評価する段階では統計知識が物を言います。 統計への苦手意識を持つ方もいるかもしれませんが、大丈夫です。ここでは平均や中央値といった基本指標から、P値・信頼区間、効果量(リスク比やオッズ比、NNT)まで、薬剤師が押さえておきたいポイントをわかりやすく整理します。また、ロジスティック回帰などの多変量解析や最新の機械学習モデルの位置づけにも触れ、「統計学的な有意差」を鵜呑みにせず臨床的意義を考える視点を養いましょう[1]。 基本指標のおさらい:平均・中央値・ばらつき 平均値はおなじみの指標ですが、中央値(メディアン)も重要です。外れ値に強い中央値は偏りのある分布の実態把握に有効です。例えば新薬の平均寿命延長が1.5年でも、中央値が0.5年なら一部にしか効果がない可能性もあります[2][3]。 また、ばらつきの指標として標準偏差や四分位範囲(IQR)も重要です。特にIQRは外れ値の影響を受けにくく、偏った分布のばらつき把握に適しています。 統計的有意差と臨床的意義の違い:P値・信頼区間の読み方 P値(通常P<0.05)だけで一喜一憂するのは危険です[5]。P値は「効果の大きさ」ではなく、「偶然でないらしさ」を示す指標でしかありません。 そのため、95%信頼区間(CI)の確認が不可欠です。効果の不確実性や最小・最大の見込み範囲を把握でき、臨床的意義の判断材料になります[6][7][8]。 効果量を読む:リスク比・オッズ比・NNTの活用 リスク比(RR)やオッズ比(OR)は効果の大きさを表す指標であり、1を基準に効果の有無を見ます。さらに、ARR(絶対リスク減少率)やNNT(治療必要数)により臨床的意味が直感的に理解できます[9][10]。 例えばARRが5%ならNNT=20で、「20人治療すれば1人救える」という意味になります。これらを併用することでEBMにおける実践的な判断が可能になります[11]。 アウトカムと解析手法:連続データ vs 二値データ 連続データ(血圧など)ではt検定や線形回帰が用いられます。一方、二値データ(死亡の有無など)ではカイ二乗検定やロジスティック回帰が用いられます。 ロジスティック回帰は複数因子を調整した「調整オッズ比」が算出でき、観察研究での交絡調整に役立ちます[12]。ただし、統計調整だけでは交絡が完全に除去されるわけではなく、因果関係には注意が必要です[13][14]。 機械学習モデルは何ができる?その位置づけ 決定木・ランダムフォレスト・XGBoostなどの機械学習モデルは、大量データの予測・分類に強力です[15][16]。ただし、解釈性に乏しく「なぜそうなったか」がわかりづらいという課題もあります。EBMの視点では、仮説検証には伝統的統計手法を、予測にはMLを、と役割分担が求められます。 統計手法の選び方:目的×データ型で考える 解析目的(差の検定 vs 予測)とデータ型(連続 vs 二値)の2軸で統計手法を整理しましょう。例えば「連続型×差の検定」ならt検定やANOVA、「二値型×予測」ならロジスティック回帰やランダムフォレストが対応します。 実務で解析を行うことは少ないかもしれませんが、論文の妥当性を読み解くうえでこの視点は重要です。RやPython、エクセルなどでも簡単な解析が可能なので、実際に手を動かすことで理解が深まります。 次章への橋渡し:生成AIによる統計支援の可能性と限界 生成AI(ChatGPTなど)を用いれば、統計解析やグラフ描画の一部を自動化できます[17]。しかし、AIは計算手段にすぎず、統計の「意味」を理解する力は人間にしかありません[18][19]。 EBMにおいては、AIによる結果を鵜呑みにせず、自ら批判的に吟味する姿勢が不可欠です。次章では、実際に生成AIを活用したEBM実践の方法と注意点を紹介していきます。統計リテラシーを武器に、AI時代でもブレない臨床判断を支えましょう。 参考文献 [1][11] るなの気になる!医療ニュースメモ | ファーネットマガジン [2][3][4][5][6][7][9][12][13][14] 統計の誤解が医療を蝕むとき|RehAIstics Lab [8] 信頼区間とは何か?|Physiotutors [10] NNT|統計用語集|統計WEB [15] ランダムフォレストとは?|AI Market [16] 決定木アンサンブル学習|ShrimpCrab [17][18][19] LLM時代と統計学の役割|HeartCount [20] 生成AIとテキストマイニング|NTTデータ数理システム

January 6, 2026