第12章 薬剤師によるEBM実践と生成AI活用の未来

今日の臨床現場では、薬剤師が処方監査や服薬指導などで患者の治療選択を最新の研究エビデンスに照らし合わせた形で行うEBM(根拠に基づく医療)の実践が求められています[1]。一方で、生成AI技術の急速な進展により、文献検索や要約作業の効率化が可能となりつつあります。ASHPの事例では、AIツール導入によってデータ検索やリスク評価の負担を大幅に軽減しながらも、薬剤師が必ずAIの出力を確認する運用が取り入れられています[2][3]。こうした実践動向を踏まえ、本章では第1章~第11章の内容を総括しつつ、実務導入に向けたガイドライン的視点、教育カリキュラムの展望、今後の制度・ツール・標準化の方向性について論じます。 ガイドライン的視点とワークフロー設計 薬剤師のEBM実践では、ガイドラインの推奨を機械的に適用するのではなく、その根拠の質・強さと適用可能性を検討する姿勢が重要です。たとえば推奨の背景集団や想定外の例外条件(腎機能、併用薬、高齢など)を確認し、個別患者に合わせて判断します。実務導入にあたっては、EBMの5ステップ(疑問設定→情報探索→批判的吟味→適用→評価・改善)をワークフローに組み込むことが考えられます。具体的には以下のようなプロセスが指針となります。 臨床疑問の定式化(PICO/PECO):患者の問題からエビデンス探索の焦点を明確化 情報探索:最適なキーワード・MeSH語でデータベース検索、ガイドラインや高品質レビューの活用 批判的吟味:研究デザインや統計手法を評価し、対象集団やアウトカムの妥当性を判断 患者・現場への適用:患者の価値観や併存疾患を踏まえつつ結果を説明、意思決定に活かす 実施後の評価・改善:介入結果をモニタリングし、プロセスやアウトカム指標で検証・フィードバック これらのステップを共有フォーマット(SBARやSOAPメモ、要約表など)や電子カルテ連携ワークフローに落とし込むことで、現場運用が持続可能になります。 教育カリキュラムへの反映 薬剤師教育においても、EBMとAIは不可欠な要素となりつつあります。実際、ある調査では多くの学生が個人利用で生成AIツールを活用しているものの、約62%が従来型の教授法を好むと回答しており[4]、教育現場にはAI活用と批判的思考育成のバランスが求められています。生成AIは「実験室のツール」として学生の学び方を変革しており[5]、その潜在能力を生かすにはAI技術の基礎、倫理的課題、ツール評価能力、ワークフロー統合法などAI関連の臨床能力を体系的に習得させる必要があります[6]。現状では多くのカリキュラムがAI普及前に設計されており、認定基準にもAI教育の明記はありません[7]。今後は、EBMとAIリテラシーを含む横断的教育プログラムの構築が急務です[8]。たとえばジャーナルクラブや臨床実習の演習にAIツール演習を組み込み、学生自身にAI出力の検証や医療倫理的討論を経験させることが有効でしょう。 モデルカリキュラム例(例示):EBM基礎(統計学・研究デザイン、5ステップ実践)、情報検索技術(PubMed/MeSH検索、二次・三次情報の使い分け)、AIリテラシー(機械学習基礎、AIモデルの性質・倫理)、クリティカルアプレイザル(論文吟味ワークショップ)、実践演習(疑義照会ケーススタディ、患者シミュレーション、AIツール活用演習)などを組み合わせた長期的・段階的なカリキュラム設計。 生成AI活用の安全策と標準化 薬剤師の業務に生成AIを取り入れる際は、利点とリスクの両面を明確に管理する必要があります。生成AIは「もっともらしい」誤情報(ハルシネーション)を出力する傾向があるため[9]、AIが提示した要約内容は必ず原文で検証します。たとえば、出力中の主要効果量、95%信頼区間、p値、追跡期間、対象基準、主要/副次アウトカム、症例除外基準、有害事象定義などを原著論文で確認するチェックリストを作成し運用することが推奨されます[9][10]。またAIによる引用にはPubMed IDや原文へのリンクを付けて透明性を担保し、監査可能な記録とします。さらに、個人情報や機密情報の取り扱いには匿名化・アクセス制御・契約条項順守などのガードレールが必要です。品質保証(QA)の観点では、生成AI支援後の要約正確性、引用整合性、検索再現性、時間短縮効果、検出漏れ率などを指標化し、人間→AI→人間の検証プロセスを確立します。EBM実践とAI活用双方の信頼性は、判断プロセスの可視化と裏付け根拠の提示によって確保されるべきである点は、EBMと説明可能AI(XAI)で共通する考え方です[1][10]。 今後の展望と制度・ツール開発 将来的には、薬剤師EBM実践とAI活用を制度的に支える枠組みが整備されることが望まれます。たとえば薬剤師向けEBM実践ガイドラインやAI利用指針、電子カルテ・情報システムとの連携インターフェースの標準化、AI活用認定研修・資格制度などが考えられます。また、オープンアクセスの医療データベースやサマリー・データベースを拡充し、検索・要約ツールとしての信頼性の高いAIアプリケーションの開発を促進する必要があります。さらに、機械学習研究者やIT企業を含む学際的チームによる共同研究・試行(PoC)を通じて、服薬指導、患者シミュレーション、薬歴記録など具体的ユースケースに即したAIソリューションを検証していくことが重要です。これらの取り組みを通じ、薬局・病棟レベルでのEBMワークフローとAI支援の標準化・共有化が進みます。 以下に、具体例として今後のチェックリスト・モデルカリキュラム・研究課題案を示します。 チェックリスト例: PICO/PECOテンプレート:臨床疑問を組織的に定式化するツール 30秒アブスト評価表:論文抄録から効果量・信頼区間・副次アウトカムを迅速確認 患者説明フォーマット:利益・有害事象・不確実性を整理しやすくする定型表 AI利用時原文確認リスト:要約内の主要アウトカム・追跡期間・AE定義など必須検証項目 モデルカリキュラム例(科目・モジュール): EBM基礎(統計学・研究デザイン、5ステップ実践法) 臨床情報検索(PubMed/JPv等活用、MeSH・キーワード設計) AIリテラシー(AI概論、LLMの特徴、倫理・バイアス・XAI) 批判的吟味演習(医薬論文ワークショップ、事例検討) 臨床実習・ケース学習(疑義照会、AI支援患者シミュレーション、薬歴レビュー) 研究課題例: AI支援型EBMワークフローの臨床効果検証(時間短縮率・アウトカム改善など) 生成AI要約の引用・文献整合性の定量評価 薬局・病棟へのAI導入が薬剤師業務効率とミス防止に与える影響 薬剤師・患者のAI利用受容性と教育ニーズの調査 AIツールのコスト効果分析およびSOP標準化 以上のように、薬剤師のEBM実践は「論文を読む技術」ではなく意思決定プロセスの運用として再設計されるべきです。同時に生成AIは「判断の代替」ではなく、エビデンス探索・整理・文書化を支援する補助ツールとして位置づけられます。今後は薬学教育へのEBM・AI統合、臨床現場へのAI導入研修、制度的枠組みの整備などを通じて、薬剤師が安全かつ効果的にEBMを実践できる体制を構築していくことが求められます[7][2]。 参考文献 [1] [10] EBMと説明可能なAI(XAI)という考え方 – 薬剤師のためのAIノート https://pharmacist-ai-notes.jp/2025/10/30/ebm%E3%81%A8%E8%AA%AC%E6%98%8E%E5%8F%AF%E8%83%BD%E3%81%AAai%EF%BC%88xai%EF%BC%89%E3%81%A8%E3%81%84%E3%81%86%E8%80%83%E3%81%88%E6%96%B9/ [2] [3] AI in Action: Pharmacists Reflect on Innovation-ASHP https://news.ashp.org/news/ashp-news/2025/09/03/ai-in-action-pharmacists-reflect-on-innovation [4] [6] [7] Pharmacy Students’ Perspectives on Integrating Generative AI into Pharmacy Education https://www.mdpi.com/2226-4787/13/6/183 [5] [8] [9] Pharmacy education is shifting in the age of generative AI https://www.pharmacist.com/Blogs/CEO-Blog/Article/pharmacy-education-is-shifting-in-the-age-of-generative-ai ...

January 7, 2026

第11章 薬剤師EBM実践と生成AI活用のこれから:実装ガイドライン・教育統合・展望

薬局や病棟などの現場でEBM(根拠に基づく医療)を継続的に運用するためには、業務プロセスへの組み込みと生成AIの適切な補助設計が不可欠です。まず、業務フローの中にEBM 5ステップ(問診設定、情報収集、批判的吟味、適用、評価)を明確に定義し、それぞれの段階でAIツールを「作業補助」として利用できる体制を整えます。例えば、臨床疑問(PICO)を生成AIで文章化・検索キーワード生成に活用したり、検索語の同義語展開・MeSH候補提示にAIを使ったりすることが考えられます[1]。文献の批判的吟味にはチェックリスト自動生成などで抜けを防ぎますが、必ず原文で検証する工程を設けます。患者説明文や報告書の下書き作成、服薬指導資料の平易化には生成AIを利用し、最終的な編集・吟味は人間が行います。このように「人→AI→人」の協働プロセスを定型化し、プロンプト設計も含めて運用ルール(例:必ずPMID付きで引用)を明文化します[1]。 **EBMプロセス設計:**疑義照会や服薬指導など典型場面で「3分EBMテンプレート」(問い→候補文献→要点→説明案)を導入し、現場で回るフローを作ります。情報共有にはSBAR/SOAP形式や要約メモ、ジャーナルクラブを活用します。 **生成AIの役割:**AIはあくまで「判断の代替」ではなく「作業支援」です。例えば、PICO定式化の補助、検索式のブラッシュアップ、批判的吟味の項目出し、患者説明文の翻訳支援など、各ステップでAIに特化したプロンプトを用意します。一方でAI出力には必ずクリティカル・シンキングで臨み、AIが示した多面的な視点・リスクなどを検討するよう心がけます[1]。 **定期的レビュー体制:**新たに導入したツールやプロセスの効果を評価するため、文献要約の正確性や情報探索の再現性、業務時間短縮効果などの指標を設定し、振り返りを行います。エラー事例を共有し、プロンプトや運用ルールを改善し続けるPDCAサイクルを組み込みます。 図: 薬剤師が服薬指導や調剤で働くイメージ。生成AIはこのような場面での意思決定を下支えするツールとして使われる。 教育カリキュラムへの統合 薬学教育や現任教育においては、EBMと生成AIの両方をカリキュラムに組み込むことが重要です。具体的には、臨床実習や実務実習で対話型AI患者シミュレーションを取り入れ、学生がリアルな患者対応を安全に練習できる環境を作ります。例えば、名城大学では78歳設定のAI患者キャラクターが導入されており、学生の話し方次第でAI患者の反応が変化し、隠れた不安や生活背景が明らかになるなど、会話訓練を通じたコミュニケーションスキル育成に役立っています[2][3]。また、教育用生成AI(ChatGPTなど)の学習モードでは、学生の問いに対してソクラテス式に質問を返すことで思考を深めさせる機能が普及しており、能動的学習を促すツールとして期待されています[4]。 **対話型シミュレーション演習:**薬学部講義や演習でAI患者アバターやVRを使い、服薬指導・疑義照会・緊急対応などのシナリオ演習を実施します。実例として、生成AIを搭載したシミュレーションシステムでは「学生の言葉遣いが冷たければAI患者は心を閉ざし、共感的な姿勢なら隠れた不安を話してくれる」といったリアルな反応が得られています[2]。失敗して学べるVR演習と組み合わせ、対人スキルと実践力を磨きます。 **クリティカル思考とAI倫理教育:**教員研修を通じてAIリテラシーを高め、学生にはAI出力を評価する能力を教えます。ツール使用の前に根拠を吟味する習慣を重視し、「AIが出したから正しい」と盲信しない態度を育てます[5][6]。AI倫理(ハルシネーション対策、プライバシー)も含めた講義をカリキュラムに組み入れます。 **学習支援AIの活用:**生成AIはレポート作成補助だけでなく、学習パートナーとしても活用可能です。教育特化型のAIは学生に応じた出題・ヒントで学習を促すほか、国家試験対策では苦手分野の演習を提案するなど、アダプティブ・ラーニングに適したツールとして機能します[4]。 **継続教育プログラム:**現場薬剤師向けにはCPE(継続教育)にAIリテラシー研修やEBM演習を組み込みます。業務設計担当者や教育担当管理者を対象にしたワークショップで、新ツール・新プロセスの導入研修を実施することも効果的です。 今後の展望(政策・技術・評価) 今後は行政施策・技術革新・評価指標の整備を並行して進める必要があります。まず政策面では、厚生労働省・デジタル庁が推進する医療DX計画において生成AI利活用が明記されており[7]、医療機関向けに先進技術検討会が設置されるなど、AI導入を後押しする動きが見られます。自治体レベルでも、神奈川県ではジェネレーティブAIによる住民健康データ分析基盤が構築され、保健指導の効率化と効果検証に活用されています[8]。 **政策・制度:**国はAIプラットフォームの標準化や法規制の整備を進めており、医療費抑制・医療安全の観点からAI支援の評価体制も議論されています。公的助成や補助金を活用した医療DX促進も拡大しており、薬局・病棟におけるAI導入支援策も期待されます[7][8]。 **技術革新:**技術面では、電子薬歴やレセコンへのAI統合が進展中です。三菱電機デジタルは処方入力の自動化・疑義照会支援などを行うAIエージェント搭載プラットフォームを開発中で[9]、2025年1月からは生成AIによる電子薬歴アシスタントも実用化しています[10]。さらに、大規模言語モデル(LLM)の精度向上により、医学論文やガイドラインの自動要約、レコメンデーション機能が今後急速に高度化すると予想されます。 **評価と安全性:**導入効果の評価には、アウトカム指標とプロセス指標の両面が必要です。要約精度や引用の妥当性、検索再現性、業務効率化(時間短縮)などを定量化し、継続的に検証します。また、医療AIのセキュリティや倫理ガイドラインの策定も重要課題です。例えば、医療AI業界の研究組織ではAI安全性評価スキームの確立やセキュリティ教育の枠組みづくりが進められています[11]。 以上のように、実務フローの設計、教育プログラムの整備、政策・技術面の環境整備を三位一体で進めることが、薬剤師によるEBM実践と生成AI活用の成功に不可欠です。これらの取り組みを通じて、薬剤師がAIを「強力な相棒」として使いこなし、質の高い医療に貢献できる体制を築いていくことが期待されます。 参考資料 [1] EBMの実践に生成Aiを活用するためのグランドデザインを探る|青島周一 https://note.com/syuichiao/n/nee5260ccb677 [2] [4] [5] 〖2026年版〗薬学部教育で導入必須!未来の薬剤師を育てる「AIツール」徹底解説 | ファーマAIラボ https://pharmailab.net/%E3%80%902026%E5%B9%B4%E7%89%88%E3%80%91%E8%96%AC%E5%AD%A6%E9%83%A8%E6%95%99%E8%82%B2%E3%81%A7%E5%B0%8E%E5%85%A5%E5%BF%85%E9%A0%88%EF%BC%81%E6%9C%AA%E6%9D%A5%E3%81%AE%E8%96%AC%E5%89%A4%E5%B8%AB/amp/ [3] [6] Pharmacy education is shifting in the age of generative AI https://www.pharmacist.com/Blogs/CEO-Blog/Article/pharmacy-education-is-shifting-in-the-age-of-generative-ai [7] [8] [11] 〖独自視点〗2025年下半期 医療・製薬業界AIニュースまとめ - メンバーズメディカルマーケティングカンパニー https://www.members-medical.co.jp/blog/medical/2025/1210/10396/ [9] [10] AIエージェント活用したレセコン・薬歴開発へ/三菱電機デジタルイノベーション https://www.dgs-on-line.com/articles/3071

January 7, 2026

第8章8-5 生成AIによる作業のQA(品質保証)

EBM (Evidence-Based Medicine)では「最良の根拠」を臨床の判断に役立てることが基本ですが、そのプロセスは膨大な文献探索・要約作業を伴い、人手だけでは追いつかないことが知られています[1]。生成AIはこうした作業を支援しますが、AIの出力が確実に「良い判断」に貢献したかを評価・改善するためには、適切な評価指標とQAプロセスが欠かせません。本章では、生成AIを用いたEBM文献検索・要約作業の品質保証手法と、その実装例(EBM_Pharmacist_MVP)での工夫について述べます。 1. 評価指標の明示 AI支援の成果を客観的に測るため、以下の指標を明確に定めます。 要約の正確性:AIが出力した要約の内容が原著とどれだけ一致するか。行ごとに正誤をチェックし、情報の取りこぼしや誤解釈を検出します[2]。 引用整合性(PMID一致):AIが提示する引用文献(PMID)が実際の原文献と対応しているかどうか。AIは虚偽の引用(いわゆるハルシネーション)を起こしやすいため、参照文献の整合性確認は必須です[2][3]。 探索再現性:同じ質問・キーワードに対し、AI(あるいは検索エンジン)が一貫した検索結果を返せるか。検索条件やAIへのプロンプトをログに記録し、再実行可能な仕組みを設計します。[3]ではRAG(Retrieval-Augmented Generation)を用いることでAIの出力の裏付けとなる情報源を固定化し、再現性の向上に寄与していると報告されています。 時間短縮効果:AIを使った場合と使わない場合の作業時間を比較します。膨大な文献量を人手だけで追うのは非現実的で、米国の医師らが約19本/日分の論文を読む必要がある一方で実際には週1時間未満しか読めないとされることから[1]、AIは大幅な時間短縮をもたらす可能性があります。実装ツールでは、検索~要約作成に要する時間を計測・記録します。 見落とし率:AIが取り上げなかった重要な情報や論文の割合。人間の評価者がAI出力と原文献を比較し、重要項目の抜け漏れを検出します。この数値が低いほど品質が高いと評価できます[2]。 これらの指標を組み合わせ、定量的かつ定性的にAI支援の成果を検証します。単にBLEUやROUGEのような機械的なテキスト一致度指標だけでは、臨床的に有用かどうかは測れないため、専門家による評価が必要です[4]。 2. QAプロセスのフロー 図1に示す通り、生成AIの品質保証には「人→AI→人」の検証ループが基本となります。 図1: QA検証ループの構造(模式図) まず人間の質問者(薬剤師や研究者)が文献検索や要約の要求(プロンプト)をAIに与え、AIが回答・要約を生成します。その出力に対して人間が内容・引用を照合し、誤りや見落としを見つけ出します。発見したエラーは蓄積してデータベース化し、プロンプトやツール設定を随時改善します。Kallmesらの報告でも、AI支援によるシステマティックレビューでは専門家による監督と検証が重要とされ、AIの性能評価だけでなく時間短縮の測定や「Rapid Review」への応用も議論されています[5]。このように、AIが生成した内容を人間が必ずチェックし、必要に応じてフィードバックして再実行するワークフローを確立することがQAの要です。 エラー事例を蓄積し、プロンプトや検索クエリの改善に活かすPDCAサイクルも重要です。AIの出力に頻出する誤りパターンを分析し、次回以降の問い合わせ時にそれを回避するプロンプト設計を行います。例えば、「◯◯に関する要約を作成せよ」という依頼ではなく、「PubMedで見つかる最近5年の◯◯論文の要約を、PMIDを明記して答えてください」と具体化することで、検索範囲や引用の信頼性を高めることができます。このように人間とAIを交互に用いる検証ループにより、AI支援プロセスの信頼性を向上させます[6][5]。 3. EBM_Pharmacist_MVPでの工夫と運用シナリオ 当社のEBM_Pharmacist_MVPでは、QAを支える実装上の工夫を取り入れています。まずログ記録機能として、ユーザからの質問・プロンプト、AIの回答・要約、および要約に引用されたPMIDと要約対象の原文を一元的に記録・保存しています。これにより後から検索履歴を再現できるほか、同じ質問への再問い合わせで結果を比較・検証することが可能です。 さらに引用整合性確認機能を実装し、AIが出力した各PMIDが実際の文献中に該当箇所があるかを自動チェックします。PMIDリストが回答中に現れると、そのPMIDの論文を自動検索し、要約本文中のテキストと一致する記述があるかを検証します。RAGの考え方[3]に基づき信頼性の高いソースに基づく回答を促すと同時に、出力された架空の引用(PMIDマッチしない)の検出も容易にします。 運用シナリオ例としては、薬剤師が新薬◯◯について情報を求める場面を想定します。薬剤師が「◯◯の効能と副作用に関する最新論文の要約」をAIに依頼すると、AIはPubMed検索を行い、関連論文を要約して回答します。薬剤師は得られた要約と各PMIDの原文要約(または抄録)を対照し、表現やデータの正確性を確認します。不一致や見落としがあれば、その部分を修正してログに記録します(例:「回答では副作用にα阻害作用の記載がなかったが、原論文には明記されていた」等)。記録されたエラーは事例集として共有され、次回のプロンプト修正やAIモデル改善に活用されます。これにより、薬剤師はAIの自動化機能で大量文献からの情報収集時間を節約しつつ、ヒューマンチェックで品質を担保するワークフローが回ります。 4. 人間とAIの役割分担 評価項目ごとに、人間とAIは次のように役割を分担します。 評価項目 人間の役割 AIの役割 要約の正確性 要約内容を原文と照合し、誤りを検出 複数論文から要約を作成 引用整合性(PMID一致) AIの提示するPMIDを原文献で確認 関連文献を抽出し、PMIDと引用を提示 探索再現性 検索キーワード・プロンプトを記録し再実行 定められた条件で文献検索・要約を実施 時間短縮効果 作業時間を計測・評価 大量文献の自動検索・要約 見落とし率 要約に含まれない重要情報を検出 可能な限り包括的な要約を試みる 図2ではこれらを例示しています。AIは大量検索・情報抽出・要約生成の作業を担い、人間はその結果のチェックとフィードバックに注力します。 図2: 人間とAIの役割分担例(図示) このような協調体制を通じて、AIの自動化利点と人間の専門知識を組み合わせ、EBM実践における「良い判断」への貢献度を高めます。 まとめ EBMにおける生成AI活用では、単なる自動化ではなく品質保証の仕組みが不可欠です。要約の一致度や引用の正しさ、検索の再現性、時間短縮効果、見落とし率などの指標を明示し、ヒト・AI・ヒトの検証ループを回しながらAIをチューニングしていくことが、信頼性の高いAI支援EBM実践の鍵となります[5][6]。今後はこうしたQA手法を体系化し、EBM_Pharmacist_MVPのような実用ツールと組み合わせていくことで、薬局・病院・ガイドライン策定現場におけるAI活用を一層前進させることが期待されます。 参考文献 [1] [7] Microsoft Word - Sackett et al.doc https://www.cebm.ox.ac.uk/files/news-and-views/sackett-evidence-based-medicine.pdf/view [2] [8] Artificial intelligence in clinical pharmacy—A systematic review of current scenario and future perspectives - PMC https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12553886/ [3] [4] Reproducible generative artificial intelligence evaluation for health care: a clinician-in-the-loop approach - PMC https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12169418/ [5] Human‐in‐the‐Loop Artificial Intelligence System for Systematic Literature Review: Methods and Validations for the AutoLit Review Software - PMC https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12552804/ [6] Human-in-the-Loop AI Use in Ongoing Process Verification in the Pharmaceutical Industry https://www.mdpi.com/2078-2489/16/12/1082

January 6, 2026

第8章8-2 生成AIによるエビデンス探索・レビュー支援の有用性と限界

生成AIを用いたエビデンスレビューでは、人間の専門家とAIが分業して進めるハイブリッド型ワークフローが重要です。近年、検索クエリの自動生成やレコードの自動スクリーニング、文献要約など、システマティックレビュー工程の各段階で生成AIが支援する事例が報告されています[1][2]。例えば、AIは大量の文献から関連研究を抽出する際に検索語の展開や絞り込みを行い、作業時間を大幅に短縮することが期待されており、ある報告では人手では数日かかるタイトル・要旨スクリーニングをAIが1時間以内に終えた例が示されています[3]。筆者らが開発したAIエージェント「EBM_Pharmacist_MVP」も、PICO形式への疑問定式化や検索語提案、Appraise用のチェックリスト自動生成などを担い、実際の薬剤師EBM実践における生成AI活用の一例となっています。 検索・スクリーニング支援: 生成AIは検索式の改良候補や同義語展開を提案し、広範な文献探索を支援します[1]。適切なプロンプト設計を行えば、高い感度(リコール)で関連文献を見つけることが可能です[4][3]。一方、AIのみでは重要な文献を見逃したり、不要な文献を含めてしまうリスクもあります。実際、あるレビューではAI検索で関連研究の中央値91%を見逃したとの報告もあります[1]。 データ抽出・要約支援: AIは抽出すべきPICO要素を表形式で整理したり、複数の論文から要点を簡潔にまとめる作業を補助します[1][2]。レビュー作業の効率化や表現統一の支援には有用ですが、AIが生成した要約内容や引用箇所は必ず原文と照合する必要があります。AIは「もっともらしい」文章を作る一方で、存在しない論文や誤った根拠を示す(いわゆる幻覚)がちであるためです[5][6]。 信頼性と品質管理: 医療分野では特に引用の正確性やデータの透明性が重視されるため、AIのアウトプットには厳格な品質管理が求められます[7][6]。例えば効果量や信頼区間などはAIの生成結果だけで確定せず、必ず原文を確認します。また、AIツールを用いたレビューでは専門家による監査が前提とされ、「AIによる下書きを人間が検証する」流れが不可欠です[7][2]。 活用時の課題と倫理的懸念 生成AIの活用には多くの可能性がある一方で、精度や倫理、安全性に関する懸念もあります。研究レビュー向けの調査では、AIは高速かつ広範なサーチ支援に優れる反面、誤引用や根拠追跡の難しさが指摘されています[1][5]。具体的には、ある事例でAIが存在しないRCTを「架空の根拠」として要約に挙げてしまった例が報告されており、AIの提示する情報がいつでも検証可能とは限りません[5]。また、機械学習モデルには訓練データに基づくバイアスが内在するため、従来見落とされがちだった偏りに気づけないリスクもあります[6][8]。さらに、個人情報・医療情報を扱う場面では、入力データの匿名化やプライバシー管理、利用規約遵守など細心の運用設計が求められます。 時間とリソースの効率化: 生成AIは大量データの処理を自動化し、医療者の負担軽減に貢献します。複数の研究で40~90%の時間短縮効果が報告されており[3][9]、日常業務での利用価値が期待されています。 エラーと幻覚: 一方、AIは時に「もっともらしい誤情報(幻覚)」を生成し、引用が実際の論文に基づかないケースがあります[5][6]。引用整合性を確保するには、原典のPMIDや該当箇所を明示してAI生成内容と紐付けるなど、厳重な監査体制が必要です。 倫理・安全: 医療現場でのAI活用には品質保証と倫理配慮が必須です。患者安全を守る観点から、AIによる推奨や要約はあくまで支援情報にとどめ、最終判断は人間が行う姿勢が重要です[8][6]。また、医療データの機密性や医療機器規制への準拠など、法的・契約的な要件も整備する必要があります。 生成AIはエビデンス探索・レビューの作業を強力に補助しますが、「判断の代替」とせず、あくまで下書き・整理の補助ツールとして位置づけるのが現実的です[7]。特に薬剤師が活用する際は、生成AIを利用したワークフローの「成果物すべてを人間が再検証する(人→AI→人)」体制を確立し、エラー事例を蓄積しながらプロンプトや運用ルールを改善していくことが安全運用の要となります[7][2]。このように、有用性と限界を明確に把握した上でAI支援を設計すれば、薬剤師によるEBM実践の効率と質を高める一助となるでしょう。 参考文献 [1] [7] [8] Generative artificial intelligence use in evidence synthesis: A systematic review - PMC https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12527500/ [2] [3] [4] [5] [6] [9] Can generative AI reliably synthesise literature? exploring hallucination issues in ChatGPT | AI & SOCIETY https://link.springer.com/article/10.1007/s00146-025-02406-7

January 6, 2026