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第9章: 薬剤師によるEBM実践のケーススタディ

薬剤師は臨床疑問に正確に答えるため、医師の処方を吟味してより適切な治療法を提案するために、EBM(根拠に基づく医療)の知識が不可欠である。ここでは、入退院時、慢性疾患、OTC/セルフケアという3つの場面別に、薬剤師がEBMの流れに沿ってどのように介入できるかを具体例で示す。各ケースで判断フロー表での介入・アウトカム整理SBAR形式の報告例を示し、EBMを支援するツール「EBM_Pharmacist_MVP」の活用例も紹介する。

ケース1: 入退院時の薬剤照合(Medication Reconciliation)

急性期入院時や退院時には、患者が持参した服用中薬と院内処方を照合して不整合を解消することで、薬剤エラーや再入院リスクを低減できる。薬剤師は持参薬の確認処方との照合疑義照会(相違点の報告)患者指導・情報共有といった介入を行う。以下にフロー例を示す。

  • 入院時: 患者から持参薬と服用歴を聴取 → それらと新規処方を照合(重複・抜け・相互作用の有無) → 問題あれば医師に疑義照会して処方修正 → 確定した薬歴を記録し、患者に服薬指導

  • 退院時: 退院処方と在宅服用薬(持参薬)を照合 → 最新の退院薬リストを作成・説明 → 患者や次の施設に情報提供し、服薬指導を実施

入退院時のフローチャート例:

  • 入院患者の持参薬情報収集
  • 医師処方と照合 → 重複・抜けがないかチェック
  • 異常無し → 患者へ服薬指導・退院用資料作成
  • 異常有り → 医師へ疑義照会し、処方修正

介入内容とアウトカム(例):

介入内容 アウトカム・評価指標
入院時・退院時の薬歴照合 薬剤不一致(重複・処方抜け)の減少[2]、投薬ミス防止
患者・他職種への情報共有 患者の服薬遵守率向上、再入院率低下

EBM活用例:

  • Step1 問いの構築(PICO): 「退院時薬歴照合に薬剤師介入を加えると、薬剤エラーは減少するか?」といった臨床疑問を設定。EBM_Pharmacist_MVPでPICO形式に整理し、目的を明確化する。
  • Step2 文献検索: ガイドラインや文献検索(PubMed・JAMA等)を行い、薬剤照合の有効性や手順に関する最新エビデンスを収集。EBM_Pharmacist_MVPは関連論文やガイドラインを提示し、参照を容易にする。
  • Step3 エビデンスの吟味: 見つかったレビュー論文や臨床試験の質を評価し、介入効果(例えば、薬剤不一致減少の効果)を確認。
  • Step4 適用と実施: 得られた根拠を基に、自施設のワークフローに沿った薬歴照合手順を作成・改良する。EBM_Pharmacist_MVPはチェックリスト作成やカンファレンス資料のドラフト作成を支援する。
  • Step5 効果の評価: 介入後にエラー件数や再入院率などでアウトカムを追跡し、結果をモニタリングする。

SBAR例(疑義照会時):

  • S (Situation): 「患者Aは入院時に持参薬Xを服用していましたが、処方に含まれていませんでした。」
  • B (Background): 「当該薬は血糖管理薬であり、退院後も継続が必要です。過去に低血糖の既往があります。」
  • A (Assessment): 「持参薬Xの中止は低血糖リスク増加につながる可能性が高いと考えられます。」
  • R (Recommendation): 「退院処方に薬Xを追加していただくようご検討ください。」

ケース2: 慢性疾患患者への薬学的介入

慢性疾患(例:高血圧、糖尿病など)の患者に対しては、薬剤師が目標設定とモニタリングを行いながら継続的にサポートする介入が重要である。例えば糖尿病患者の場合、目標HbA1cや生活指導を明確に設定し、定期的に測定・評価を行う。薬剤師は生活習慣指導、服薬指導、投与計画の最適化などにより、血糖・血圧管理の改善を図る。Cochraneレビューでは、薬剤師介入群で血糖(HbA1c)や血圧の達成率が改善したと報告されている。

慢性疾患介入のフローチャート例:

  • 患者評価: 慢性疾患患者の選別(例:最近の検査値で目標未達)
  • 目標設定: 血圧やHbA1cの目標値を確認・共有
  • 介入実施: 服薬計画の見直し、生活指導、アドヒアランス改善策
  • フォローアップ: 定期的な効果測定と評価
  • 目標未達の際は再介入・医師連携して治療調整

介入内容と評価指標(例):

介入内容 目標設定・評価指標
服薬指導・自己管理指導 血糖値(HbA1c)や血圧など臨床パラメータの改善[3]
薬物治療プランの最適化 目標値達成率、投与量調整件数
定期フォローアップ・動機付け 服薬遵守率、長期転帰(合併症発症率、再入院率など)

EBM活用例:

  • Step1 問いの構築: 「薬剤師による教育介入は糖尿病患者のHbA1cに影響を与えるか?」など、PICOで問いを設定する。
  • Step2 文献検索: 糖尿病や高血圧管理における薬剤師介入研究を検索し、メタアナリシスや臨床試験から介入効果のエビデンスを収集。
  • Step3 エビデンス吟味: 介入実施群と通常ケア群の臨床アウトカム(例:平均HbA1c低下量)を比較検討し、介入の有用性を評価する。
  • Step4 適用: 得られたエビデンスをもとに、自施設に最適な介入プログラム(例:薬物療法のプロトコール、教育資料)を作成する。EBM_Pharmacist_MVPは関連ガイドラインや文献要約を提供し、介入設計を支援する。
  • Step5 効果評価: 一定期間後に患者のデータを集計し、目標達成度や副作用発生率を評価する。

留意点: 薬剤師介入による効果は患者の自己管理意識や併存疾患、介入頻度などに左右される。短期間では明確なアウトカムが得られにくい場合もあるため、長期的な追跡とチーム医療による多角的アプローチが望まれる。

ケース3: OTC/セルフメディケーション支援

風邪薬や鎮痛薬などのOTC薬相談では、患者の症状と併存疾患・併用薬を踏まえた安全な選択が求められる。薬剤師は患者の訴えを聞き取り、重篤疾患の除外やリスク判定を行った上で、適切なOTC薬を提案し服用方法を指導する。Pharmacy Practice研究によれば、OTC薬の安全性を確保しつつ利益を最大化するうえで、薬剤師の役割は極めて重要である。特に高齢者では不適切使用の防止が課題であり、必要なら医療機関受診を推奨することもある。

OTC相談のフローチャート例:

  • 患者来局・症状・既往歴確認
  • 緊急性・重症度判定(赤旗サイン)
  • 緊急対応要: 医療機関受診提案
  • 軽症/OTC可: OTC薬候補選択
  • 候補薬の適応・副作用を確認
  • 適切: 薬剤選定・用法用量説明
  • 不適切/リスク高: 他薬提案 or 医師相談勧奨

介入内容とアウトカム(例):

介入内容 アウトカム・評価指標
OTC薬の選択と服用指導 患者満足度、症状改善度、安全な使用率[4]
高齢者・併存疾患患者への注意喚起 不適切使用(誤用・副作用)の予防
必要時の医師紹介・疑義照会 重篤化回避、適切治療への橋渡し

EBM活用例:

  • Step1 問いの構築: 例えば「非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)は高血圧患者の腰痛において安全か?」といった具体的な臨床疑問を設定する。
  • Step2 文献検索: NSAIDsの高血圧・心疾患患者への安全性や、類薬間の比較研究をEBM_Pharmacist_MVPで検索し、最新の知見を収集する。
  • Step3 エビデンス吟味: 検索結果(メタ解析や疫学データなど)を吟味し、薬剤間の心血管リスク差を把握する。
  • Step4 適用: 患者の背景を踏まえた最適なOTC薬選択を行う。EBM_Pharmacist_MVPはFDAガイドラインやBeers基準などを参照し、高齢者や併用薬との相互作用リスクを通知する支援を行う。
  • Step5 効果評価: 服用後の症状変化や副作用発現率を確認し、必要に応じて再評価する。

SBAR例(OTC相談時):

  • S (Situation): 「高血圧と心疾患のある70代男性が、風邪薬Aの購入を希望されました。」
  • B (Background): 「患者は現在、ベータ遮断薬と利尿薬を服用中で、薬Aには交感神経刺激成分が含まれています。」
  • A (Assessment): 「薬Aは血圧・心拍数の上昇リスクが高いため、高齢かつ心疾患患者には不適切と判断します。」
  • R (Recommendation): 「心血管リスクの低い別剤(例:解熱鎮痛薬B)を提案し、必要ならかかりつけ医への相談をお勧めします。」

まとめ

これら3つのケーススタディにおいて、薬剤師はEBMの各ステップを通じて現場介入を行うことができる。EBM_Pharmacist_MVPは、問いの整理から文献検索、エビデンス要約、応用まで各段階で薬剤師を支援する仮想アシスタントとして機能する。たとえば、疑問点のPICO化や最新文献の迅速提示、臨床への落とし込みアイデア提案などに役立つだろう。これらの実践例を自施設に取り入れることで、患者ケアの質向上と安全確保を図るとともに、薬剤師自身のEBMスキル向上にもつながる。各自が紹介したフローやツールを参考に、日常業務でEBMを取り入れた介入を検討してほしい。

参考資料

  • 薬剤照合によるエラー減少効果、薬剤師介入による慢性疾患管理効果、OTC支援における薬剤師の役割などのエビデンス。
  • Evidence-Based Medicine in Pharmacy Practice
  • The impact of pharmacists-led medicines reconciliation on healthcare outcomes in secondary care: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. | PSNet
  • Pharmacists play vital role in improving patient health shows biggest review of evidence to date | Cochrane
  • Exploring How Pharmacists Engage with Patients about Over-the-Counter Medications - PMC